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ワクスタ

ワクスタとは

20代で2度、人生の大きな決断をした、有名予備校講師のはなし。その2

Category | 大学教授・教師・研究職

2018.4.18

田中結也さん。予備校日本史講師。
関西学院大学文学部史学科卒業。
同大学院文学研究科日本史学専修博士前期課程修了(同 後期課程退学)。
現在、日本史講師として西日本各地の予備校に出講中。
独特の切り口による解説は「大学入試に直結すると同時に歴史の理解が深まる」と
多くの受験生から強い支持を受けており、毎年全国の難関大学、有名大学に合格者を輩出。
講義以外にも模試作成やテキスト編集などにも携わり、大学受験業界で幅広く活動している。

「職業・予備校講師」という選択。

大学院時代について、教えてください。

進学後は、大学教員になりたいという夢を持ち、研究を進めていました。小さな塾でのアルバイトで生活費を稼ぎながら何とか生活していたのですが、研究と仕事のバランスは、次第に崩れていきました。というのも、塾講師の仕事が自分に向いていたみたいで、年齢が若いこともあって生徒からの評判も良く、色々と仕事をいただけるようになったんです。すでに結婚していて、それを伝えていたことも大きかったと思います。そこからは、小さな塾から中堅予備校へと仕事の幅が広がっていきました。一方で、大学院で研究する時間は減っていき、論文を読む時間もなくなり、たいした研究報告もできなくなりました。そして、とある地方の予備校から毎週固定での講義依頼があった時に、私は大学院を退学する決断をしました。

 

これも大きな決断ですね!大学院退学について、未練はありませんでしたか?

未練はありましたね…。いつか時間の余裕ができて、復学して研究を再開できるのでは?とも思っていました。
でもその未練を断ち切ってくれたのが、30歳からお世話になっている現在の予備校です。
2年目頃から模試作成などの責任ある仕事を任せていただくにつれて、中途半端な覚悟では講師業は務まらないことを自覚するようになりました。
周りの講師のレベルが高すぎて、全然太刀打ちできないんです。でも覚悟さえ決めれば、厳しい環境でも何とかやっていけました。
おかげさまで、今ではさらに仕事の幅は広がり、胸を張って「職業・予備校講師」と言えるようになりました。自分に講師としての責任感や自信を与えてくれた職場に、大変感謝しています。

大学での勉強は、「自分流」の確立。

高校までの勉強と、大学での勉強、違いは何でしょうか?

一番の相違点は、「解答例が用意されているかどうか」だと思います。高校生が受ける定期テスト・模試・センター試験などはいずれも、解答例が準備され、そこにどれだけ近いかで評価されます。
ところが、大学の試験やレポートには解答例がありません。だから、「自分にとっての解答はこれなんだ!どや!」みたいな強い意志を示さないといけない。この「自分の解答を示す」ということは、社会に出てから一番必要とされる力ではないでしょうか。いわば「自分流」の確立です。
通勤中、高校生が赤いシートを使って単語を暗記する姿を見て、「そんな勉強方法は意味がないぞ!」とお説教したくなるときがあります。でも部活などで忙しいから、その場しのぎの勉強方法をとってしまうのだと自分に言い聞かせるのですが、ふと視線を移すと、大学生が同じ方法をとっていて驚愕したことがあります…。大学での学びは、知識の吸収だけではありません。知識を使って、自分なりの解答を生み出す方に考え方を切替える必要があると思います。そういった意味で、私が勤める予備校は大学の準備の場所なので、授業中もきっかけだけ与えて出来るだけ生徒に考えさせるようにしています。

考え方を切り替える上で、学生本人にはどんなことが出来ると思いますか?

普段から解答をいくつも考えることですね。本当は小学校くらいから、「たくさん答えを見つけられる方が良い」と認識できていたらいいのですが…。
というのも、学生たちが「解答は一つしかない」という固定観念を持つ原因は、問題の作り手側にあります。採点の都合上、複数の解答が出てきてしまうと困るので、無理やり「一つの正解」になるような問題・問い方にしてしまいます。こういうことをすると学生の思考力が鍛えられないので本当は良くないのですが。これは私自身を含め、作り手の課題ですね。

得意なことがなくても大丈夫。バランスよく何でもできる、というのだって、すごいこと。

予備校には色んな教科の先生がいらっしゃいますが、学生時代にこれを学んでおけばよかった!と思う科目はありますか?

数学・物理学・化学など、理系科目はもっと学びたかったです。
予備校講師として日本史を教えていると、自分は一芸を突き詰めるタイプの人間だと周りに評価されます。でも、最近になって本当にそうなんだろうかと疑問を持ち始めました。
一口に予備校講師と言っても、授業がものすごく上手な神講師タイプ、自分の学科について大学教授レベルまで掘り下げることができる学科能力タイプ、
次から次へと原稿を書ける参考書量産タイプなど様々なタイプがあります。私はどれにも当てはまりません。全部そこそこにできて、どれかの項目が飛びぬけて高いわけではない。
オンリーワンを良しとする最近の風潮とは逆行しますが、私は生まれながらの「バランサー」タイプであることを最近になって自覚したんです。
「バランサー」っていうのは、いわゆる器用貧乏のことですが、一方で飛びぬけた弱点は見当たらないと捉えることもできます。
それなのに、高校から大学にかけて自分は理系科目は苦手なのだとふたをしてしっかりと取り組まなかった。もしかすると、本当はバランス良くこなすことができたのでは?と今になって後悔しています。

これから必要なのは、情報を取捨選択する力。

田中さんが考える、学生時代に身に着けるべき力とは何でしょうか?

自分にとって何が必要かつ正しい情報なのか、を見極める力だと思います。
「情報過多社会」である現代は、ストーリー(=作りこまれたこと)が氾濫しています。そのことに気が付いて、情報を取捨選択することが大切ですね。

「ストーリー」とは、具体的にどんなものでしょうか?

例えばテレビ番組ですね。私の場合、歴史モノ番組が提供する情報は、ほとんどが真実ではないと思っています。決してそれ自体が悪いことだとは思いません。
制作側は、視聴者に望まれる面白いものを作る必要がありますからね。でも受け手である私たち視聴者は、それが「脚色されたもの」「作りこまれたもの」であることを認識できないといけない。
つまり、真実なのか否かを判断できる力が必要とされます。こうした判断が出来るようになれば、ユーモアがありながらも芯を外さない、思考力を持った人間になれるはずです。

取捨選択の力をつけるために、学生が今すぐできることは何でしょうか?

情報を「覚える」のではなく、「自ら調べる」ことだと思います。
今の学生さんは、与えられた情報はすべて覚えなきゃ、という強迫観念があるように感じます。情報量が多い世の中を生きてきたからかもしれませんね。
自然にたくさんの情報が入ってくる世の中だからこそ、与えられたものをただ覚えるのではなく、自ら意思を持って調べることが必要だと思います。
どれだけ調べたか、その回数が力に変わるのではないでしょうか。

調べるとき、どこから情報収集するのがオススメですか?

インターネットがいいと思います。いまだに、電車で新聞を広げるサラリーマンを見かけますが、あれはカッコ悪い。
スマホなど新しい媒体で、正しい情報をどんどん入れていけるといいですね。例えば教科書をすべてスキャンして、タブレットやパソコン一つで予備校に来る学生がいたら、最高です。
重たい教科書を持ち運ぶことも、本屋で本を買うことも、別に必要なわけではない。便利なものはどんどん活用できる方がいいと思います。

予備校講師は、やりがいや魅力がどんどん増していく仕事。

最後に、学生さんへのメッセージをお願いします。

これから進路を考えるとき、ぜひ予備校講師という職を、選択肢の一つにしてほしいです!
「将来の夢は予備校講師」という学生さんは、なかなか少ないと思います。実際、私の周りの日本史講師で私より若い人はいません。
やりがいがある仕事だと思っているのですがイマイチ伝わらないんです…。
昭和時代の変なイメージから敬遠されたり、少子化への危惧が先行したりして、就職先としては考えてもらえないんだと思います。

確かに、新卒で講師になる方ってなかなかいないですね。予備校講師ってどんな働き方なんですか?

私を含め、ほとんどがフリーランス(個人事業主)ですね。私の場合、大きな塾の社員になるか、フリーランスかで迷っていた時期があったんですが、
ちょうどそのタイミングで別の予備校の講師の枠に空きが出て、お誘いをもらったんです。その枠にハマる形で、フリーランスになりました。家庭もありますし正直最初は不安でしたが、授業をパンパンに詰めるとそれなりに稼げたので、驚きました(笑)。
それに長年やっていれば知識を蓄えられますし、書き物や講演などの授業以外の収入も増えます。そうすると、やりがいや魅力が増してくる仕事だと思いますよ。

清水 真理

デスク
清水 真理

福岡県出身。都内の短大を卒業後、社員20余名の採用コンサルティング会社に入社。幕末史とシャーロックホームズを愛する、社会人6年目。

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