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ワクスタ

ワクスタとは

「人生全てを脚本で食うために捧げる」と決めた作家の話。

皐月 彩さん(日本大学 芸術学部 映画学科 表現理論コース シナリオ専攻)
フリーランス脚本家。円谷プロダクションにて仕上げ進行として『ウルトラマンジード』の制作に携わったのち、脚本家として独立。代表作『ウルトラマンR/B』『セブンティーンモータース』『劇団かぞく』。

「脚本で食う」ために、選択した日芸。

なぜ脚本家としての仕事を選んだんですか?

お金を稼ぐ手段は色々ありますが、子供ができた時、行きたい大学に行かせてあげるとか、そういう事が出来るだけのお金を自分一人で稼ぐためには、自分に一番適した職に就く必要があると感じました。

でも昔から、会社勤めはあなたには絶対できないと両親や先生からよく言われていたんですよね。だから、自然と会社勤めをする未来像は私の頭から消えていました。

じゃあ、個人でどうやって稼いでいくか。絵を描いたりとか、音楽をやったりとか、好きなことはたくさんあったんですけど、好きなことで人から「こうしなさい」「ああしなさい」って言われるのは苦手なんですよね。
だから、「好き、とはいかなくても、得意なことって何だろうな? 延々やってても嫌にならないことってなんだろうな?」と考えて。そうしてたどり着いたのが、「文字を書くこと」でした。

最初は、小説家にでもなるかー! と思っていたんですけど、これまた、自分が飽き性なもので、一人で黙々と作品を作ることは向いていない気がしたんです。小説は、自分でエンドマークを打たない限りはいつまでも書き続けられるもの。

途方もない仕事を永遠に続けることはできないかもしれない……と思っていた時にたどり着いたのが、脚本でした。

予算が決まっていて、やらなきゃいけないこともあって、など色々な制約がある中で、短い期間で物語を書き、それをたくさんのスタッフの人が協力して形にしてくれる……。
他の文字媒体ではなかなかない「共同作業感」が面白いなと思って、本格的に脚本家を目指すことにしました。

なぜ「日芸(日本大学 芸術学部)」に入学したんですか?

「どうやったら脚本で食べていけるのか」考えたとき、最初は高校を出たらそのまま働くのがいいのかなと考えていたんです。
そうすれば、最初から最前線で仕事を見ることができるし、そこでコネもできるじゃないかと。

でも、当時よく進路相談をしていた脚本家の方に言われました。
「今や脚本家であっても、学歴を見られてしまう時代だ」と。

なら、どの大学に行けば、脚本家の学歴として申し分なく、一歩でも早く仕事を取れる人間になるのかを調べました。それで見つけたのが、日大の芸術学部でした。

芸術系の大学には、芸術を「自己実現の手段」と捉える学校と、「ビジネス」として捉える学校の二種類があります。

日芸は「芸術ビジネスを学ぶ学校」と銘打っているだけあり、制作予算をどうやって獲得するのか、どうやって予算を駆使して撮影をするかなど、あいまいな夢に向かってなんとなく技術を勉強する方法ではなく、地に足をつけて「○○をするために△△が必要だ」ということを直結で教えてくれる。
それって芸術を仕事にしたい自分にはぴったりだなと思ったんですよね。

もちろん、歴史・理論のような実務的でない授業もありましたが、社会に出ればしばらくは自分よりもうんと上の世代の人と仕事をすることになるわけで。その人たちがここ数十年当たり前に使ってきた技術が、今は廃れてなくなっていたとしても、「あれみたいにやってよ」と言われたら「わかりました」と、今の技術で近いものを作って返すことができる。
そういう「翻訳力」を持つためには、映画史の知識は必須だと思います。
これに関しては独学でも十分学べることですけどね。

学部で印象に残っている授業を教えて下さい。

3年時に受講した、『映像企画演習』という授業です。
一から映像作品の企画書を作り、提案をして、提案内容について学生同士でディスカッションしていくという授業でした。

脚本において「ヒットする作品」とは、「だれが見ても分かる作品」のこと。だから、「ここが面白くない」「ここが分かりづらい」など、客観的な忌憚のない意見をもらえたのが面白かったです。

脚本家は、限られたドラマ・アニメ枠にある仕事を大勢で奪い合い、勝ち取っていく仕事です。いくら勉強しても企画書が通らなかったら仕事がとれません。
実際、初めて自分の作品が放映されてから10年も、私はまったく作品を世に送り出すことができなかったわけで……。
企画を通す、ということが、私は一番苦手でした。

仕事を取ることを意識して企画書を書く経験は、プロになるまでなかなかできません。授業内でこういった訓練ができることは、とても貴重だと思います。

一般的には3年次に専攻を決めることが多いですが、日芸ではどうですか?

だいたいの人が「このコースに進みたいなあ」とイメージはしていますが、「絶対ここに入る!」みたいな気合で入学してくる人はほぼいませんでした。
だから、最初から「脚本コースにしか入る気がありません」と言っている私はかなり浮いてましたね……。

それに希望していたとしても、先生から「君にこの専攻は向いていない」と言われて、致し方なく他に移る人もいます。そういう人は最終的に辞めてしまう場合が多いですね。
評価されないなら、やめちゃおう! みたいな人もいるんだなあとぼんやり見てました。

大学としても、学びをビジネスに変換し「食べていける人」を育成したいのだから、早いうちに方向転換できるように本音で話してくれるのはありがたいと思うんですけどね。

では、皐月さんが専攻された「シナリオ」の授業ってどんなものがあるんですか?


ひたすらシナリオを書く授業がほとんどです。

4年生時のゼミは、青木研次さんという脚本家の方にご指導いただきました。
日芸では学生がゼミを選ぶのではなく、先生が自分のゼミに入れたい学生を選ぶ方式。

学生のプロフィールが先生方に渡されていて、「何をやりたい人なのか」・「仕事としてどのくらいやりたいと思っているのか」「AO入試や一般入試の時に何を書いてきたのか」など基本的な情報は全て把握されている状態で、基本的に授業は行われています。

そのうえで、映画を撮影したり評論を書いたりする課題を行い、それを受けて教授たちが「どの学生がどういう適性を持っているか」をチェックしてゼミを割り振ってくれます。

卒業制作では、2時間ドラマのシナリオを書きました(400字原稿用紙120枚)。
私は納得がいくものがなかなか書けず結局3本程度書いて、最後に書いたものを提出しました。今その脚本を読むと顔から火が出るほど恥ずかしいので、封印したいなあ。

授業でもゼミでもお互いの作品を批評する場がすごく多いんですが、私、他人の原稿を読むのってすごい苦手で。なんか面白くないなあと思うと、眠くなっちゃうし、1ページ目で心が折れちゃったりするんですよ。

それに対して先生たちはアマチュアの原稿を時間をかけて読んでくれて、訂正してくれて、見直すためにまた読んでくれて。頭が上がりません……。

「この人には勝てない!悔しい!」と思ったことはありましたか?


あります。
私を含め日芸の人はみんな、「自分の作品が一番オモシロイ」と思っている人たちなので、すごい面白い作品を観ると口から血が出そうなほど悔しいんですよ。それは、自分の作品がつまらないと言われるよりもうんと。

そういうふうに感じる作品の共通点は「誰にでもわかりやすく、面白い」もの。

脚本は観客に向けて届けるもの。
主張したいことを、ただ自己満足な表記・表現方法で書いても、誰にも伝わりません。脚本を最初に読むスタッフにさえ「これ、結局何が言いたいの?」と思われてしまったら、いいものはできません。

「この話、よく分からない」と言われたら、「なんで分からないんだよ!」とは思わず、「分かるように書けなかったんだ……。修行します」と思うようにしています。
いまだに書いている原稿の半分はそんなふうに言われてます。まだまだ未熟な脚本家ですが、そういう自分にチャンスをくれ続ける方々には感謝してもしきれません。

生身の人間を投影し、愛されるキャラクターを生み出す。

お話に出てくるキャラクターは、どうやって考えているんですか?


「自分」や周りの人を題材にすることが多いです。
大半は自分ですかね。本当に仲のいい役者さんとかに、「この脚本、全キャラクター皐月さんだったね」と言われることもあります。そのくらいぱっと見では分からない感じ。

あなたはどういう人ですか?と聞かれても、「○○な人です」と1個の単語で答えるのって難しいと思うんです。
だって楽しい気持ちのときもあれば、悲しい気持ちのときもあれば、昨日は感じよく出来たのに、なんで今日はあんな意地悪言っちゃったんだろうって日もあるじゃないですか。
そういう、毎日くるくる変わる自分や友人の性格をひとつひとつキャラクターに割り振ってます。

例えば冷酷非道なキャラにも、その性格になった過去・背景がある。「この人、きっと何かあったんだろうな」と観客に思わせるためには、そのキャラの背景や喜怒哀楽のポイントを理解していなきゃいけない。そう考えると、現実に存在する人物を投影する方が、一から作り出すより簡単なんです。

でも、今はまだ24歳なので経験のストックがすごく少ないんです。
年を追うにつれて書くものはどんどん増えるはずなので、そうなったら自分はどういう作品を書くようになるんだろう? と考えるのは楽しいですね。

執筆のために日々やっていることはありますか?

世の中で流行っている情報を手に入れるために、ジャンルを問わず、月に本を50冊ずつ読んでます。

どんなジャンルのお話の仕事を振られても、楽しそう、と思えるのって、普段から楽しそうなことを探してる状態にないと難しいんです。
知らないことが世の中にたくさんあるって思うと、全く知らないジャンルの話を振られても、自分が無知なことに慣れてるからすぐに「じゃあ調べよう」になりやすいんですよ。

これまで人材会社で営業をやってみたのも、バンドの後ろでギターを弾いたのも、銀座で個展をやってみたのも、テレビの制作現場で下っ端の仕事をしていたのも、全部脚本のため。知らないことを知って、自分の世界を広げて、書けるものを増やすため。

どんな経験も、今後の仕事の糧になると思っています。いつかこの経験がこうじて「皐月さんの脚本は良いよね、またよろしくね」と言われるような人になれたらいいなあ。

阿久根 美咲

編集長見習い
阿久根 美咲

社会人一年生。初めての営業や地方出張生活の傍ら、ライターをしている。ミュージカルが何より大好き!

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