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ワクスタ

ワクスタとは

海外出張が多かった父親の影響で、海外に憧れ、アメリカで仕事を掴んだVFXアーティストのはなし。

渡辺 潤さん(VFX(視覚効果)アーティスト)
アメリカに拠点を置き、『ハン・ソロ』や『アントマン&ワスプ』などのハリウッド作品のVFX(視覚効果)を担当されている渡辺潤さん。
今回、デジタルハリウッド大学の学生を対象に開催をされたVFXメイキングセミナーに潜入。様々な世代や国籍の人々が所属するチームで働く渡辺さんに、学生時代と現在のお仕事についてインタビューを行いました。

CGを学べる場所も少なかった学生時代

高校生の頃は、トランペット吹きになるか音楽のミキサーになろうと思っていました。
一方で、友人たちと特撮自主制作映画も撮っていました。ぼんやりと映像をやってみたいなという気持ちは、その頃芽生えたんだと思います。

スターウォーズシリーズやバックトゥザフューチャーなどのスペシャルエフェクトを映画館で観たときの衝撃は忘れられません。特撮作品はそれまでに日本でも撮られていましたが、あのCG技術には目を見張るものがありました。ミニチュアを撮影し、絵を組み合わせただけなのに、なぜこんなにもリアルに見えるのだろう?
今後、きっとコンピューターが全盛になり、CG技術がさらに発展する。そう確信した私は、当時まだできたばかりの専門学校のCG科第一期生として学ぶことにしました。

父の仕事現場を見て、渡米を決意した20歳

渡米を決意したのは、20歳の時。
父の仕事場だったアメリカのクリエイター現場に連れて行ってもらったのがきっかけです。
ずっと憧れていた映像制作の最前線に触れたことで、自分もこういう場所で働きたいという気持ちが強くなりました。

将来的には、有名な映画サイトやエンドクレジットに名前が載る人になりたい。
そこからは、英語や映像についてもっと深く、実際に仕事に役立ちそうな勉強をしようと行動してみました。

海外で働きたい、でも、不安もたくさんあった

どんなに勉強をしたとしても、本当に自分が世界で通用するのかは分からない。それに、たとえアメリカの企業に採用されても、その中でどこまで伸し上がれるかは分かりません。

私たち日本人が海外で働くには就労ビザが必要。それに、もし所属している会社が倒産したらビザは失効するので、それでも海外に残りたいときはどうすればいいのか……、そうやって考えるだけでも先行きが見えなくなってしまいます。
現在はアメリカの永住権『グリーンカード』を持っているから心配ないですけどね。

語学についても、不安なことはたくさん。
渡米にあわせて生活レベルの会話はできるようにしていましたが、仕事で複雑な話になるとボキャブラリーが足りなくて苦労しました。
厳密に言うと、今でもよくあるんです。色々な国のアクセントや発音、技術が進歩するにつれ、新しい単語も増えていくので、それにも対応し続けなければいけません。それを苦労ととるか楽しみととるかは人によっても違うと思います。

日本でも海外でも技術は進歩しているので、毎年知らないことが出てくるという条件は変わりません。特に海外で仕事をするうえでは、逃がれられないと思うべきでしょう。

フリーランスとして仕事を成り立たせるために必要なこととは?

自分のスキルを常に、少しずつでも上げることだと思います。
新しい人たちが活躍している中でも自分が必要とされ続けるには、空き時間があったらトレーニングをすること。

例えばYouTubeには、新しいCGソフトウェアに関する「チュートリアル動画」がたくさん転がっています。
最初は簡単なものから始めて、少しずつ機能の難易度を上げていく。
そして実践してみる、という一連の作業をひたすら繰り返しています。動画は書籍よりも、より実践的な技術が学べる方法だと思っています。

動画の中には正直、「こことここの間はどうなってるの?」という説明不足のものもありますけどね(笑)。そういうのも、自分に少しずつ応用力が身についてくると、推察できるようになります。英語の勉強と同じですね。文脈から意味を推測するんです。
こういう考え方ができる脳を手に入れるのに、最短ルートはありません。まずはソフトと向き合って友だちになる。アメリカで活躍するアーティストたちも、皆そうやって学びながら今の仕事を手に入れています。

ソフトウェアはどんどん変わるし、インターフェースもどんどん変わります。料理人が、毎回違う道具を使って料理を作れと言われるようなものです。
一回一回、使いこなせるようになるまでに時間もかかるし、使いこなせたと思ったらまた道具が変わる。目まぐるしい技術の進歩の中で、最先端の人間でいるためには常に勉強が必要なんです。

『ハン・ソロ』や『アントマン&ワスプ』に関わっていても、営業は必須

私は仕事に、安定を求めるタイプなんです。
だからなるべく1社で仕事をしていけたらいいなと思うんですが、最近、アメリカの仕事がカナダに流れ始めているのが現実……。カナダが、ハリウッドビジネスに対しての補助金を出すようになったので、そちらに仕事が流れているんです。

そうなると、仕事の案件数も減っていき、ロサンゼルスの会社もいくつか倒産しています。ひとつの会社に頼り続けて生活をするのは、今はとても難しいんです。
そうなると、色々な会社と契約を取らなくちゃならない。そしてそのためには、色々な会社に自分の技術を知ってもらわなくてはいけません。
そこで必要になるのは、営業活動です。

営業活動に使うのは、「デモリール」という過去に携わった制作物をまとめた、作品集のようなもの。
私のデモリールは、これまで作ってきた映画のカットを繋げ、一本のPV動画にしたものです。

CGや視覚効果に携わるスーパーバイザーは、多くのアーティストから営業を受けています。
そんな数多くいる候補者の中から、スーパーバイザーの目に留まって初めて、自分がデモリールの中のどの箇所を担当していてどんな技術を持っているかを説明できます。私の実績や技術が、彼らが探している人材にマッチしたら、面接しましょう、となるわけです。

面接では1カットごとに、どういうことをやって、どういう工夫をして……という話をして。そこで気に入られたらようやく、「○日から来てください」と仕事の話ができるようになります。

本当は営業せず、内部のチームの中から推薦がもらえるのが一番いいんですけどね。
それはなかなか難しいので、少しでも目に留まるよう工夫に工夫を重ねて……。なんだか、日々就職活動しているような感覚になります(笑)。

ベテランの強み、若手の強み

職場には、様々な国籍と年齢の人が働いています。

ベテランの人は、CG技術が発達する前から、「どうやったら映像にできるのか」を考えてきた人たちが多いので、例えば今の技術では難しいという問題にぶつかっても、ゼロから造り上げるだけのガッツとノウハウを持っています。

技術がすでにある時代に生まれた若手の人たちには、彼らベテランが提案するような新しいアイデアはなかなか出せません。

スーパーバイザーほどの人になると、ちょっとした欠点でもすぐに気づくことができます。一瞬映った、1フレームだけの違和感にもすぐに目が行く。それだけ、長年積み上げた実績によって培われた「目」を持っているんです。そういう人たちは映像1つ見ても、もっとこうすれば、ああすれば素敵になるというアイデアも持っている。
自分もそういう人間になりたい、と心から尊敬しています。

逆に、若い方は自分たちよりもさらに勉強していますし、最新バージョンのソフトを使っているので、ベテランよりもソフトウェアを使いこなして仕事をしているという強みがあります。
小さなところで言うと、ショートカットキーの使い方もそのひとつですね。

ベテランがつい癖で使ってしまう表現や、旧態依然としてしまうのに対して、若いスタッフは最新ソフトを駆使して、画期的な演出をつけて見せてくれます。

でも正直、VFX(視覚効果)アーティストは、技術が進歩して新しいソフトや機材が生まれれば、経験はリセット。全員がまた一からそれを使いこなすためにてんやわんやする職業です。
そう考えると、ベテラン、新人と区切りづらい仕事だとも言えますね。

映画を作ってみたい、学生たちに伝えたいこと


学生時代、映画をやりたいと言ったとき、「ストーリーが大事」だと言われました。

観客は、映画の中で起こる物語を観に来ています。
私たちVFX(視覚効果)アーティストは、その映画の物語をより面白く見せるために、エフェクトを加え、より観客がストーリーに没入できるように努力する。
アーティストとしてこういう風に作りたい、はもちろんありますが、それが物語にどのくらい作用するか真摯に考えられる人こそ、映画作りにおいて活躍できる人材になれるのだと思います。

私が学生の頃は、この業界の先人たちが少ない時代でした。
だから、自分が何かやりたいと思っても、ロールモデルになる人たちがほとんどいなかったんです。

ですが現在は、自分を含めて多くの人たちが「こうやって仕事をしてきた」「こうすればうまく行くかもしれない」と後輩へ経験を語る場所がたくさんあります。
そういう先輩たちの話を活用して、自分ができる最大限の仕事を手に入れてもらえたらいいなと思っています。

皐月 彩

ライター
皐月 彩

日本大学芸術学部映画学科 2017年卒。 エジプト出身。円谷プロダクション製作の『ウルトラマンジード』の仕上げ進行スタッフを経て、現在はフリーランスの脚本家として映画・アニメ・ドラマの制作にかかわる。

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